芸能

如月歌舞伎



先週までの寒さが嘘のような暖かい日差しと青い空。気分も明るくなります。昼の部の歌舞伎を楽しんできました。

二月の歌舞伎は先代辰之助を偲ぶ狂言と大物役者達の顔合わせが話題の如月歌舞伎。もう三十三回忌なんですね。新之助、菊之助、辰之助の初代三之助の中で団十郎さんも亡くなられてしまいました。菊五郎さん、もう少し頑張って下さいね。

最初の演目は三大狂言のひとつ、義経千本桜の中のすし屋 一幕。松緑が主人公いがみの権太。以前菊五郎で一幕。先代幸四郎で通し狂言を観たので伏線が分かっているけれど、この一幕だけ観ただけではシュール過ぎて理解出来ないと思う。すし屋の主人弥左衛門が道端で死体を見つけて首を切って持って帰るなんて! しかもそれをすし桶に入れて隠して置くなんて!でもこの荒唐無稽な展開が歌舞伎なんだと自然に思えるようになればしめしめ。インド神話の摩訶不思議さと似たところがあると思います。



初めて観る暗闇の丑松。長谷川伸による新作歌舞伎の傑作だそうです。料理人の丑松(菊五郎)にはお米(時蔵)という恋女房がいますが、うだつの上がらない丑松をよく思わないお米の養母お熊は、お米を妾奉公に出そうと浪人と結託して丑松を殺そうとします。が、反対に二人とも丑松に殺されてしまいます。嘆いた丑松とお米は逃げられるだけ逃げて駄目なら死のうと話し合い、とりあえず丑松の兄貴分の四郎兵衛(左團次)を頼りに逃げ出します。
一年後、江戸を離れていた丑松はお米恋しさに戻ってきます。その途中、大雨にあい立ち寄った妓楼でなんと女郎になったお米に再会します。罵る丑松にお米は、兄貴分として慕っていた四郎兵衛に犯され女郎に売られたことを打ち明け、首を括って死んでしまいます。
全てを知った丑松は本所の四郎兵衛の家を訪ねて、お米を蔑ろにした四郎兵衛の女房を殺してしまう。その足で風呂に出かけた四郎兵衛を追いかけて、風呂場で殺して逃走します。花道を駆け抜けるシーンで幕。果たして丑松の運命はいかに?
風呂屋の釜焚き場のシーンが傑作。橘太郎演じる湯屋番頭の甚太郎のコミカルで切れのいい動きに大喝采!陰惨な殺人が行われている風呂場の裏でのワンマンショー。
悲惨な話だけど、このシーンがあるので救われます。
初世辰之助の丑松は評判だったそうです。



最後の演目は芝翫と孝太郎による陽気な団子売。仲良し夫婦、杵造、お臼が餅屋台を担いで賑わう街にやって来ます。餅をつき、おかめ、ひょっとこの面をつけて軽快に踊り華やかに締めてくれました。

初春大歌舞伎



海老蔵が来年団十郎を襲名するというめでたいニュースが流れた翌日。益々ファンが増えそうな嬉しい予感の歌舞伎座。内部は準備で大忙しなんでしょうねぇ。



本日最初の演目は絵本太功記。尼崎閑居の場。主君小田春永を打ち果たした武智光秀(吉右衛門)。しかし母の皐月は息子の謀反に怒り、尼崎の庵室にこもってしまいます。そこへ光秀の妻操(雀右衛門)が息子十次郎(幸四郎)とその許嫁初菊(米吉)を伴ってやって来ます。討死を覚悟し出陣の許しを請う十次郎。悲しむ初菊。皐月と操は別れを惜しみながら若い二人の祝言を挙げて送り出します。以前観た同作品では鴈治郎が十次郎。孝太朗が初菊を演じていて、また今日とは違うまったりした初々しさがあって祝言のシーンが印象に残っていました。演出、役者が変わると同じ芝居でも違って見える。
一方昨夜からこの庵に身を寄せている一人の僧侶。実はこの僧侶こそ春永の腹心真柴久吉。真柴を追ってきた光秀は庭の竹を切って槍を作り、部屋の中にいる久吉めがけて刺しますが、なんと部屋にいたのは母皐月。
そこへ瀕死の十次郎の敗軍の知らせ。進退窮まった光秀の前に現れた久吉。戦場での再会を約して別れる二人。吉右衛門の重厚な演技はさすが! 母と息子を失い、自分もまた死ぬであろう。やりきれない悲劇の話である。

打って変わって華やかな舞台。日枝神社の山王祭で賑わう街の様子。町内の御神酒所に集まる鳶頭や芸者集。梅玉と芝翫が曽我兄弟の仇討ち物語。若い鳶が二人で踊った獅子舞が剽軽で軽快でめでたさを倍増。

大火事の後、本郷駒込の吉祥院に避難してきた八百屋の娘お七達。お七(七之助)は小姓吉三郎に心を寄せているが、吉三郎は紛失した家宝の刀を取り戻すために江戸へ出て来たとあるお家の若君。刀を取り戻せなかったら切腹。もしくは出家しなければならない。叶わない恋に気が塞いでいるお七を慰める剽軽な紅屋長兵偉(猿之助)。猿之助の軽妙な芝居で楽しい一幕。お七の友達四人が華やかに登場しましたがなんとお一人はオン年82歳とのこと! 可愛いらしかった❤️
場面は変わって暫く後の冬の夜。すでに町の木戸は閉じられています。お七は吉三郎が探していた家宝を手に入れました。今夜中に渡さなければ、切腹しなければならない吉三郎。しかし木戸番は門を開けてくれません。そこでお七は火の見櫓に登って御法度の鐘を鳴らすことに。私が何となく知っていた八百屋お七とは違って、恋人の為に命をかける健気な娘。
ここからお七が二人の黒子に操られ浄瑠璃で人形振りを。舞う雪の中、美しい人形になった七之助。あまりの美しさに、このシーンだけに集中して大満足。前に観た演目の印象が全部吹き飛んでお七の残像しか残らなかった夜でした。年初めにこんな美しい舞台を観ることができてラッキー。いや年初めだからこそ、美しい舞台を企画したのでしょう。

十二月大歌舞伎



十二月大歌舞伎の話題は夜の部の阿古屋でしょう。玉三郎と若手の役者二人がトリプルキャスト。あの女形の大役を仰せつかった児太郎と梅枝、手本となる玉三郎。どの舞台も観てみたいが、手に入ったのは昼の部のチケット。観劇した後にゆっくりお茶を飲む時間があるからこれもまた楽しみ

昼の部最初の演目は幸助餅。松也演じる幸助は餅米問屋の若旦那。贔屓の力士雷 いかづち (中車) に入れあげて店を潰して侘しい長屋住まい。妹のお袖が花街に身を売った30両で店を再興させようとします。花街の女将はお袖をしばらく店には出さないから早く再興させて迎えに来い、そして決して相撲を見ないようにと諭して金を渡します。
ところが金を受け取って帰る途中に江戸で活躍して大関になった雷にバッタリ。幸助に礼を言うために江戸から大阪まで長い道のりをやって来たという雷に感激した幸助は大事な金を祝儀として渡してしまいます。
そこへ女房のおきみと叔父が迎えに来て、大金を祝儀にしてしまった話を聞きます。二人は幸助に雷から金を返してもらうように説得します。その様子を見ていた雷。三人が雷に金を返してくださいと頼むと快く返してくれるどころか、人気商売は頭を下げてもらった祝儀はどんなことがあっても返せない。と冷たく突っ放します。
幸助は雷の仕打ちに発奮。その後花街の女将から金を借りて一念発起して商売に精を出し評判の餅屋になります。お袖も無事買い戻し、店も立派になり大店からの注文ももらえた日。店に現れたのは雷。餅を食べてさすが評判の餅だという雷。金はいらないからと追い返す幸助。あの辛い仕打ちにあった日、雷に立ち向かい弾みで雷の羽織の紐を引き抜いた幸助はその紐を自分への戒めとして額に入れて飾っていました。雷が去った後に餅代が置いてあるのに気がついた幸助は羽織の紐と金を持って雷を追いかけます。
たどり着いた花街で幸助を待っていたのは女将。雷への悪態をつく幸助に女将から衝撃の真実が明かされます。
あの日幸助に辛辣な言葉を吐いた雷は女将に金を渡しそれを幸助に貸すよう頼んだそうです。幸助の性格を知った雷はあの時自分を芯から憎ませて幸助に発奮させたのです。そして幸助餅を色々な場で贔屓にしてくれるように宣伝していたのです。
誤解が解けた幸助は雷にどちらが早く横綱になれるか、大店を持てるか競争しようと抱き合います。
松也と中車の掛け合いが人情味溢れていて年末にぴったり。


次の演目は女形が魅せろ早替りを楽しむ お染の七役。壱太郎が難役に挑みます。心中物で有名なお染久松。主な登場人物は質屋油屋の娘お染。武家の息子だが紛失した家の財宝(午王吉光の刀と折紙)を探すために油屋の丁稚になった久松。久松は田舎にお光という許婚がいるがお染と恋仲。お光は一途に久松を愛している。お染の兄の遊び人多三郎は芸者小糸といい仲。お染と多三郎の義母、後家の貞昌は晋代が傾いて来た店を再興する為にもお染と山家屋清兵衛との縁談を進めています。
久松の姉、奥女中竹川は油屋にある刀を買い戻す為に昔の召使い土手のお六に百両の金の工面を頼みます。お六は亭主の悪党、鬼門の喜兵衛と企んで油屋へ強請りに行って失敗。
今出てきた登場人物の中のお染、久松、お光、貞昌、竹川、小糸、お六の七役を早変わりするという。いったい誰がこんな観客を喜ばす事を考えたのでしょうね。
冒頭、神社に詣でるお染が上手に消えると次は下手からあっという間にお光が登場。引っ込んだと思ったら花道から久松。その早変わりの早さに観客は大喜び。お染と久松。お染と貞昌などお約束の二役の時は必ず身代わりが後ろ向きで演じているが、ふとした瞬間にまた入れ替わっているので全く目が離せません。(^^)
歌舞伎は演目の場面がそれぞれ独立して演じられるので通しで観ていると、以前観た場面があり、しかも役者が違うのでまた趣きも違い、何度観ても面白い。これが歌舞伎にハマる一つの理由かしら?
壱太郎は玉三郎から随分と手ほどきを受けたそうで、ふとした仕草が綺麗。

お染と久松が心中した後の後日談。心中翌の噂 しんじゅうあしたのうわさ。浄瑠璃の舞踊劇。心中するが助けられた二人が猿回しの男女から、再び心中しないように諭される舞踊劇。実際にはこの後二人は死ぬことになるのがこの話。今日の演出は二人が死んだ後に、哀れ気の触れたお光が彷徨うシーン。この場の壱太郎がとても儚げで可愛い💕
歌舞伎座を出るとまだ明るい。友達と美味しい珈琲を飲みに和光裏へ行って芝居の余韻を楽しみます。

今月の歌舞伎



11月の歌舞伎座は吉例顔見世大歌舞伎。
満員御礼の酒樽が賑やか。

今日の芝居仲間。

最初の演目は大御所お二人が楽しそうに演じた楼門五三桐 さんもんごさんのきり 。南禅寺の楼門の上で天下の大泥棒、石川五右衛門( 吉右衛門 )が煙管をくゆらしながら景色を眺めていると一羽の白鷹が血染めの遺書を咥えて飛んできます。これを読んだ五右衛門は自分が真柴久吉に討たれた大明国の宗蘇卿の遺児だということを知ります。打倒真柴久吉を誓う五右衛門。そこへ楼門の下を一人の巡礼( 菊五郎 )が通りかかり声をかけてきます。実はこの巡礼こそが真柴久吉。二人の朗々とした掛け合いがこの芝居の見所。五右衛門が座っている階上が迫り上がりそこに真柴久吉が現れるとスペタクルなセット。桜が舞う中対照的な二人の男の姿。1幕の短い芝居だがまさに歌舞伎の一場面。


演目のポスター。


次の演目は文売り ふみうり 。恋文売りの女( 雀右衛門 )
が梅の枝に結びつけた文を売りながら一人の男を巡って争う二人の傾城の話を語る様を語り踊る一幕。台詞と清元の掛け合いで登場人物を演じわけています。

聖天町の法界坊は浅草龍泉寺の釣鐘建立の勧進をしながら、集めた金を道楽や飲み食いに使ってしまうという生臭坊主。亡き勘三郎の当たり役だと言われています。今回演じるのは猿之助。この演目も怪我以降の猿之助も初めて観るので楽しみも倍増。金と女に目の無い生臭坊主だけれどどこか憎めない法界坊。豪快に楽しそうに演じている猿之助。勘三郎の法界坊を観たかったなと臍を噛みます。


前の芝居で亡くなった法界坊と野分姫が合体しておくみの姿になった霊を舞の名手猿之助が見事に演じわけます。国へ帰る松若丸とおくみ、渡し守のおしづが舟を出そうとするとおくみの姿をした法界坊と野分姫の合体した霊が現れて脅します。法界坊ってもっと悪かと思っていたらあっけなく殺されてしまったのでちょっと拍子抜け。大悪党ではなかったのね。

法界坊のポスター。

今日の席は二階桟敷。舞台も客席も俯瞰できるのが楽しい。

ご機嫌な二人。

今日のお弁当。

六月大歌舞伎



六月の歌舞伎座。梅雨の合間のお楽しみ。

昼の部は菊五郎、夜の部は吉右衛門が活躍。私が楽しんだのは夜の部。

最初の演目は夏祭浪花鑑 なつまつりなにわかがみ。吉右衛門が演じる団七九郎兵衛は喧嘩で相手に怪我を負わせて死罪になるところを浜田家家臣、玉島兵太夫の執り成しで死罪を免れ放免されます。序幕は放免された団七を迎えに来た女房お梶(菊之助) 息子市松(菊之助の息子和史) 釣船三婦(歌六)が住吉神社の⛩の前で今か今かと待っています。女房と息子は住吉神社へお礼参りに。三婦の前に籠が止まり若侍が降りる。籠代を巡って駕籠かき人足と若侍が揉めているのを三婦が治める。するとこの若侍は伝七の恩人、玉島兵太郎の息子磯之氶(種之助)だとわかる。そこで三婦が磯之氶を待ち合わせの料理屋へ先に行って待つように勧める。ようやく御赦免になった伝七が現れるが、髭ボウボウのなんともむさ苦しい成り立ち。そこで床屋で身仕舞を直して男前で現れる。次に現れたのは磯之氶の恋人、花魁の琴浦(米太郎)。しつこい客に付きまとわれていたのを伝七に助けられて、磯之氶の待つ料理屋へ。またまた現れたのが一寸徳兵衛。喧嘩を仕掛けてくるがそこへ止めに入ったのが女房お梶。なんと両人ともに主筋が同じだと判り義兄弟の契りを結びます。舞台の上には吉右衛門、菊之助、和史と三代並んでいい雰囲気。賑やかで楽しい序幕。
第二幕は釣船三婦の家。誤って人を殺めた磯之氶を故郷に帰す算段をしていた三婦と女房おつぎ(東蔵)。ちょうど挨拶に来た徳兵衞の女房お辰(雀右衛門)。おつぎがお辰に磯之氶の後見を頼み、受けてもらう。しかし、三婦がお辰は若くて色気があるので何かあるとまずいとおつぎの申し出を却下。それを聞いたお辰は部屋の隅に置いてあった今で言うアイロン用の焼きごてを自分の頬に当てて顔を醜くする。どうぞこの顔なら御心配無用と。驚いた2人に家の亭主が惚れているのはここ(顔)ではなく、ここ(心)でござんす。と粋なことば。流石、任侠の女房。前からずっと気になって観たかったこのシーン。雀右衛門のセリフ回しが上手くなっていい雰囲気。
気にいらないのは上方侍の磯之氶のなんとも言えない頼りなさ。恩人の息子とはいえこんな男のために皆が奔走しなければならないの?種之助は凛々しい役も上手だということで、この役がこんな男なのです。きっとこの坊ちゃんぽいところが浪花の男衆には堪らんのでしょう。
さて磯之氶はお辰が面倒を見ることになりましたが、恋人の琴浦は伝七の舅、義平次(嵐橘三郎)が金に目がくらんで騙して連れ去ります。それを知った伝七が義平次を追いかけて悲劇の場面に。賑やかな祭囃子が聞こえる長町裏。川辺まで義平次を追いかけて来た団七に、義平次は悪態をつき、穏やかに事を治めようとしている団七をけしかけます。弾みで刀が抜かれてあとは悲劇へと一直線。髪振り乱し、着物ははだけ、川に落ちて泥まみれ。勘三郎と笹野高史が演じた同じシーンの写真が雑誌に掲載されていたので拝借しました。この殺戮場面の裏では祭りのピーク。塀の向こうに神輿の頭が見え、お囃子と掛け声が聞こえてきます。が、一瞬なんの音も聞こえず、まるで白日夢かのように義平次を殺める団七。死体を川に落し、血塗られた刀と足を洗い身仕舞を直して花道へ這うようにやって来た伝七。[ どんな悪人だろうが、舅は舅。] 絞り出すように発した言葉の重み。
親殺しの大罪を犯してしまった団七、たとえ逃げおおせたところで、重い罪が消えることはなく、絶望の淵に立っている男の悲哀が迫ってくる吉右衛門の演技でした。

今は亡き勘三郎。義平次は笹野高史。迫力あるシーン。



次の演目は 巷談宵宮雨 こうだんよみやのあめ 。前の演目が舅殺し、なんとこちらは伯父殺し。宇野信夫原作です。
芝翫演じる龍達は妙蓮寺の住職に収まっていたが生来の女好きで寺の前にある花屋の娘との間に女児をもうけます。花屋の娘は産後の肥立ちが悪く亡くなり、産まれた娘、おとら(児太郎)は甥の遊び人虎鰒の太十(松緑)に引き取られる育てられていましたが、太十の借金のカタに年老いた医者の家に妾奉公に出されるてしまいました。
その龍達は女犯の罪で寺を追われて、日本橋で晒し者になりましたが、龍達が金を持っているに違いないと見込んだ太十が引き取ります。女房おいち(雀右衛門)との貧乏長屋に転がりこんだ龍達と太十の間の腹の探り合いがコミカル。
ついに龍達が、身内しか信用できない。頼りになるのはお前だけだと太十に百両の大金を寺の縁の下に埋めてあると打ち明けた。早速夜中に寺へ忍び込み、ほうほうの手で百両を見つけて来た太十。
百両の大金を胸に抱いて安心して寝ている龍達の側でいくらもらえるか皮算用をする夫婦。こんな大変な目にあって手に入れたのだから30両は固いと言う太十。おいちと2人ああしてこうしてと話が弾みますが、目を覚ました龍達が2人に与えたのはたったの一両。
これはないと激昂する太十。険悪な家の中。そんな時いつも何かと世話になっている隣の夫婦が喧嘩をして飛び出した女房を追いかけて亭主も家を留守に。居合わせた太十は仕方なく留守を守っていると、昔の賭博仲間がヨイヨイになって鼠取りの薬売りになって通りかかる。茶菓子のお返しにと置いていった鼠取り。橘太郎演じる薬売りもいい味。
思いがけず手に入れた劇薬がこの後の悲劇を生み出します。太十が龍達に悪口を吐いて悪かったと謝り釣ってきた鯰を食べてくれと差し出す。鯰鍋を美味しそうに平らげる龍達。食べ終えた途端に苦しみだし、蚊帳の中で寝ていたが死んでしまう。
実は薬を盛ったとおいちに打ち明け2人で死体の始末を算段。葛籠の中に死体を入れ台車に乗せて太十が川に捨てに行く。
早く帰ってきてと怖がるおいち。部屋の明かりが消えて悲鳴をあげるおいちの体がスッーと蚊帳の中に引き込まれる。帰って来た太十がおいちを探し蚊帳の中で死んでいるおいちを見つけた時、隣人の声が。妾奉公に出されていたおとらの遺体が吾妻橋から上がったという。そこは先程龍達の死体を投げ捨てた場所。慌てて橋に到着した太十。欄干から何かに引き込まれて行くように川へと落下していきます。
芸達者な役者達の丁々発止のやり取りを楽しんでいる間についに誰もいなくなった。怖いお話でした。

三月大歌舞伎



ポカポカ陽気に誘われて桜も開花。チケットが手に入ったという嬉しい知らせも同時にきて思わずにっこり。先日は仁左衛門と玉三郎の競演にウットリしましたが、昼の部は愛之助、松緑、芝翫、扇雀、雀右衛門、孝太郎などなどが競演します。

最初の演目は[国性爺合戦] こくせんやがっせん 名前は知ってるけれど観るのは初めてなので楽しみにしていました。和藤内(愛之助)は明国の老一官と日本人の妻渚との間に生まれました。父の祖国、明が韃靼(だったん)に攻められているため父と共に再興を図るべく明に渡ります。頼りにしたのは老一官が最初の妻との間に設けた娘錦祥女(扇雀)の夫、獅子ヶ城の城主の甘輝(芝翫)。
城を訪ね夫の留守を守っている錦祥女に老一官は親子の対面を求めます。幼い頃に生き別れた娘に残した父の自画像。鏡越しに楼門から老一官の顔を見て父だと認識して喜び、夫が帰還したら援助を乞う。もし援助してくれるなら川に白粉、ダメなら紅粉を流して知らせると言う。やがて帰還した甘輝は妻の縁故で韃靼を裏切ることをよしとせず、妻を殺そうとします。それを阻止したのは人質として残っていた渚。二人の女の間に挟まれ手の出ない甘輝。何か決心した錦祥女。川に流したのは?
和藤内の見守る中、川面に紅が流れてくる。怒った和藤内が城目指して両手の飛六法で花道から引っ込みます。この和藤内は荒事の代表で六法で引っ込みを見せるのは弁慶、梅王丸、そしてこの和藤内だそうです。
城に戻った和藤内は甘輝に迫ります。そこへ胸から血を流した輝祥女が。妻の縁故にひかれて裏切ることをよしとしない夫の胸中を察して自死を選んだ錦祥女。その姿を見た渚もまた後を追って自死してしまいます。二人の女の犠牲に甘輝の心もとけ、和藤内を延平王国性爺と名乗らせ、二人揃って韃靼征伐の戦に出発します。


今年は先代雀右衛門さんの七回忌だそうです。というわけでこの演目[男女道成寺] では長男の大友友右衛門が明石坊を演じ七回忌の御礼口上をのべました。現雀右衛門の花子、松緑の桜子という組み合わせ。松緑が左近ではあるけれど、冒頭の桜子の姿で踊る場面は初めて見る女方の姿で新鮮。ちょっと厳ついけれど。道成寺は華やかな見せ場たっぷりの演目で何度観ても面白い。ただ以前菊之助、海老蔵のコンビで堪能していたので、ちょっと物足りない感は否めない。

初代三遊亭円朝の人情話芝浜を基にした世話狂言。仲の良い夫婦の情愛たっぷりの人情話。酒好きで怠け者の魚屋の政五郎(芝翫)はある早朝、芝の浜辺で大金の入った皮財布を拾いました。舞い上がった政五郎は長屋の友人達を誘って朝からどんちゃん騒ぎ。宴会の始まる前に女房のおたつ(孝太郎)に拾った財布を隠した包みを預けています。どんちゃん騒ぎが過ぎて、仲間たちと喧嘩になりあげくの果て大いびき。女房の苦労もどこ吹く風。ようやく目覚めた政五郎。女房に例の包みを持ってこいと言います。おたつは何のことと?何にも預かっていないよ。
ではあの皮財布を拾ったのは夢だったのか?
深く反省した政五郎。
それから三年経った大晦日、すっかり真面目になり、酒を経った政五郎は立派な家を構えています。そこへ女房のおたつが改まって謝りたいと言います。そして見せたのは皮財布。三年経って持ち主が現れないので渡し下げられたと言います。政五郎に真面目に働いてもらいたくて嘘をついて申し訳ないと謝るおたつ。女房の愛情を感じて許す政五郎。そこへ歳末助け合いの寄付を集めに来た友人。二人は渡し下げられた財布の中身をそっくり寄付することに。めでたしめでたしの楽しくほろっとさせてくれる演目でした。

先代雀右衛門さん。晩年までとても美しく、達者な演技だったそうです。

三月大歌舞伎



今年初めての歌舞伎座。あいにくの春の嵐が吹き荒れていますが、ここに集う人々にはどこ吹く風。皆様ワクワクしているのが伝わってきます。

三月大歌舞伎。夜の部は仁左衛門と玉三郎の共演が楽しみです。

最初の演目は[於染久松色読取 おそめひさまつうきなのよみとり] 実際には大阪で起こった若い男女の心中事件を鶴屋南北が江戸に置き換えて描いたお染の七役。
浅草瓦町の質屋油屋は後家貞昌、義理の息子多三郎、娘のお染の三人家族。多三郎は芸者小糸、お染は店の丁稚久松と恋仲。久松は元々は武家の出。久松の姉竹川は午王義光の短刀紛失したために切腹した父の汚名を濯ぐべく、久松と共に短刀を探している。竹川の昔の召使いお六は鬼門の喜兵衛という悪党と夫婦になり向島の土手で煙草屋を営んでいる。このお染の七役は一人の役者が、貞昌、お染、小糸、竹川、久松と久松の許嫁お光、そして悪婆と言われるお六の七役を演じるそうです。
今夜の芝居はお六と喜兵衛が主人公。仁左衛門と玉三郎が41年振りにこの作品で共演だそうです。
お六の元に竹川から短刀が油屋にあるので、それを取り戻すために百両の金を工面して欲しいと依頼される。その日暮らしの貧乏夫婦。どうしたものかと算段していると、河豚に当たった若い男の死体が運ばれてくる。その後煙草を買いに来た客が、油屋の番頭と喧嘩になり頭を殴られて法被を破かれたという。破れた法被の代わりにと高価な羽織を貰ったという。お六に自分の身体に合わせて縫い直しを頼んで法被と羽織を置いていく。
残された法被、羽織、そして桶の中の若い男の死体。悪党、喜兵衛の頭がフル回転。死体の額に傷を付け、破れた法被を着せて籠に乗せていざ油屋へ。
ここでお六の出番。油屋の番頭達を前に羽織を見せて喧嘩が有った事を認めさせる。そしておもむろに死体を運び入れて弟が昨夜死んだと言う。そこへ喜兵衛が登場。凄みをきかせて強請りにかかる。この夫婦悪役だけど、どこか愛嬌がある。そもそもこの強請は自分の欲ではなく昔の主人の為。こういうところにも憎めない風情が出るのでしょう。うまくいきそうになったところで、丁稚達が死体にお灸を据えると死んだと思われていた死体が生き返る。ばれてしまえば長居は無用。最初渡された15両を懐に籠を担いで花道を帰る夫婦。拍手大喝采。

死体の桶の上で啖呵を切る喜兵衛。


二つ目の演目は華やかな舞踊劇、神田祭。先程の強請り夫婦とは打って変わった粋な鳶と芸者が祭の様子や、江戸の情緒をたっぷりと魅せてくれました。

美しいお2人。

泉鏡花の名作を玉三郎が演出した[滝の白糸] 水芸の太夫白糸を鴈治郎の息子、壱太郎。恋人の村越欣弥を松也が演じます。玉三郎は五度にわたり主演したそうで、最後の上演は昭和56年だそうです。
越中高岡から石動に向けて白糸と包丁投げの南京寅吉が馬車と人力車で競争しています。そもそもこの二人は何かにつけて張り合っています。しかし白糸の人気が強くて寅吉はいつも悔しい思いをしています。そこで次の公演場所までどちらが早く着くかという子供じみた競争が始まったわけです。ところが白糸の馬車が途中で故障。すると馭者の欣弥が白糸を横抱きにして裸馬に乗って突っ走って競争に勝ちます。この一件で欣弥のことが忘れられなくなった白糸、
しばらくして金沢での公演が終わった晩。月に導かれて卯辰橋で偶然再会した二人。欣弥は士族であるが父が亡くなって学業を中断して馭者をしていました。法律を学びたいと言う欣弥に白糸は学費の援助を申し出ます。
それから三年。白糸の人気も翳りをみせ、仕送りの金を工面するのが難しくなってきました。
ようやく工面できることになり、深夜借りた金を大事に懐に入れて夜道を歩いていると、金を借りることを知っていた南京寅吉達が襲って金を奪って逃げます。その時トドメを刺すため包丁を投げます。白糸は寅吉の片袖とその包丁を手に錯乱して一軒の家の軒下にたどり着きます。物音に住民が雨戸を開けると包丁を手にした怪しい女。騒ぐ住民に思わず包丁を振り下ろして殺してしまいます。家の中にあった金を奪い包丁と片袖を残して逃げる白糸。何という展開!
殺人の罪で捕まった寅吉達。白糸から金は奪ったが、殺人はしていないという寅吉。検察から裁判所に証人として出廷させられた白糸が証人席で見たのは?
白糸が仕送りした金のお陰で無事学業を収め検事になった欣弥の最初の赴任先がこの金沢裁判所。
金は奪われていないと言い張る白糸に、裁判官はもう退席していいと言います。その時欣弥が私から一言と立ち上がって白糸に問いただします。そなたの心に一点の曇りもないか…と。 欣弥の言葉に真実を語る白糸。そして舌を噛んで倒れます。欣弥が退席した後銃声が。検事殿が自殺したと騒ぐ声だけが聞こえてきます。
泉鏡花の原作では白糸は死刑になり、見届けた後欣弥が自殺するそうです。
運命の歯車が狂って非業の最後を迎える二人。松也の澄んだ声を霞ヶ関辺りの方々に聞かせたい。

初春歌舞伎公演



今年初めての歌舞伎鑑賞は新橋演舞場。海老蔵が座長の公演です。


昼の部、最初の演目は中村獅童主演の[天竺徳兵衛韓噺 てんじくとくべえいこくばなし] 鶴屋南北作の人気作品だそうで、大蝦蟇が出没したり、屋台崩しがあり、早変わりあり、獅童の宙乗りまである大スペクタクル。獅童は熱演でしたが、荒唐無稽なこのストーリーよくわからない。きっと歌舞伎通は噺の辻褄などよりも役者の演技やシーンを楽しむのでしょう。

今日のお目当は座長海老蔵の[ 寿初春 口上] 新年の幕開けにふさわしい一幕だそうです。
舞台には海老蔵一人。成田屋の紋が入った裃姿で口上を述べた後、では一つ睨んでお見せ致しましょうと言って目を向くと、観客も固唾を呑んで見守って。広い会場がシーンとなり、たちまち大歓声が湧き上がりました。凄いオーラ。

最後の演目は[鎌倉八幡宮静の法楽舞] 海老蔵が市川宗家に伝わる「新歌舞伎十八番」の一つで、133年ぶりの上演だそうです。1885年に劇聖と言われた9代目団十郎によって上演されたそうですが、大した評判にはならなかったそうです。今回海老蔵は「好評でなかったものにメスを入れるのは先人に対する敬意」と語ったそうです。その意欲の表れとして、なんと三味線連中が五組も共演します。特に珍しいのは成田屋だけの伴奏を専門にする河東節連中。宗家始め全員女性奏者です。常磐津連中、清元連中、竹本連中、長唄囃子連中の五組。素晴らしい五重奏を堪能しました。
舞台は荒れ果てた寺。夜な夜な物の怪が現れるという噂を聞き忍性聖人(右団次) らが寺を訪ねると怪しい風とともにかって白拍子だったという老女が現れ舞を披露して姿を消す。すると次々に物の怪が現れる。九代目は静御前だけ演じたそうですが、今回海老蔵は、七役全てを早変わりで演じてファンを楽しませてくれました。
そもそもこのチケットは日舞の師匠の友人が購入していたものですが、思いがけぬ入院ハプニングで回ってきたもの。私にとってはラッキーだったけれど、ご本人は病室で臍を噛んでいたことでしょう。海老蔵ファンのこの方なんと昼夜別の席で3枚ずつ購入。計6回足を運ぶ予定だったそうです!
3階のど真ん中の席。見渡すと熱烈なファンがひしめいているようで、聞こえてくるお喋りが物語っていました。

12月大歌舞伎



今年もあと数日。イベントも全て終わりプシユパム達は冬休みモードかも。

年末最後のお楽しみ、12月大歌舞伎。夜の部。

最初の演目は中車が初めて主役を張る長谷川伸作の[瞼の母]。名前はよく聞く作品だけれど、見たことはありません。ヤクザになってしまった主人公は幼い頃に生き別れになった母を探しながらの旅がらす。
幼い頃に別れた母を探している忠太郎。ようやく探した母おはまは妹お登勢の将来を考えて忠太郎に冷たい態度をとり、追い返す。しかしお登勢が母に、子供の頃から聞かされている兄ではないかと問い詰めて、二人で探しに行く。しかし忠太郎はおはまの店を狙っているヤクザと喧嘩になり殺してしまう。そこへ忠太郎を探している二人がやって来る。物陰から見送る忠太郎。瞼を閉じれば母の顔が目に浮かぶ。会いたくなったらこうやって瞼を閉じておっかさんに会うんだと名セリフ。
歌舞伎の世界に中年期から入った中車。よく頑張ったなぁと思います。

今年最後の眼福。玉三郎の楊貴妃。長恨歌と能の[楊貴妃]を題材に夢枕獏が玉三郎のために書き下ろした作品。
亡くなった楊貴妃への思いが忘れられない玄宗のために楊貴妃の魂を探し蓬莱山を訪ねた方士。蓬莱山の宮殿で楊貴妃を呼び出します。
透ける幕が左右に開き小さな宮殿の帳を上げて顔を見せる瞬間から溜息が出る美しさ。衣摺れの音をさせて舞台中央に進む様子はまるで水の上を進む白蛇のよう。二枚の扇が玉三郎の身体に纏わりつくように舞っている。美しい時間だけが流れて観客達も蓬莱山を回向している気分になります。美しいものを見ると人はいい顔になりますね。

会場に飾ってある楊貴妃のポスター。美しい!



12月大歌舞伎は三部構成なので、開演前に腹ごしらえ。歌舞伎座裏の歌舞伎そば。芝居に出てきそうな佇まいのお店。

15年くらい前に見た玉三郎の楊貴妃。

11月大歌舞伎



11月の歌舞伎座は大御所達の顔見世大歌舞伎。坂田藤十郎、松本幸四郎、中村吉右衛門、尾上菊五郎。そして先月国立劇場で霊剣亀山鉾で美しい冷血漢を好演してファンを魅了した片岡仁左衛門らが集合。円熟した芸が楽しみです。

今日は戸塚の友人と誘い合わせて。歌舞伎好きの則恵ちゃん。一緒に観劇するのは初めてなので楽しみです。

最初の演目は仮名手本忠臣蔵の五-六段目。忠臣蔵の志士の中で一番間の悪い男、早野勘平とおかるの悲劇。仁左衛門は先月の悪役から一転、何をやっても裏目に出る勘平をちょっと憐れに演じている。息子の孝太郎がおかる。
このカップル、名前は知っていたけれど、どういう事情を持つのかはこの段を見るまで知りませんでした。塩治判官が江戸城内で刃傷沙汰を犯し切腹、家名は断絶に。この主君の大事に、なんとおかると逢引していた勘平。その責から猟師になっておかるの実家で暮らしていました。ある日、火縄銃の火を借りた浪人が元同士の千崎弥五郎。そこで仇討ちのための資金調達を約束します。
勘平の心を知ったおかるは身を売る決意。おかるの父与市兵衛は女郎屋から前金を預かり夜道を急ぐ中、山賊の斧定九郎に襲われ金を奪われます。そしてその斧定九郎を猪と間違えて撃ち殺した勘平。真っ暗な闇の中、人間を撃ってしまったことに驚き、懐の金を奪って逃げ帰ります。
折しも家には女郎屋の女将がおかるを引き取りに。父与市兵衛の帰りが遅いと話している中、女将に与市兵衛に前金を払ってあるのでおかるを連れて行くと言われ、自分が殺したのは義父だったと思いこみ悩む勘平。おかるとの哀しい別れの後、腹を切ります。その後村人達が与市兵衛の遺体を運びこみ、死因が刀傷だと判り自分が殺したのではないと判り、また仇討ちの血判に名を連ねることが許され、安堵して息絶えます。
それにしてもなんとも憐れなこの二人。今月の夜の部では仇討ちを果たす男の影で人生を翻弄される女性が二人登場します。

次の演目は人形浄瑠璃でお馴染み梅川忠兵衛の新口村。坂田藤十郎と息子の扇雀がこちらのカップルを演じています。忠兵衛の父、孫右衛門を歌六。則恵ちゃんはこの作品を一番楽しみにして来たそうです。
大阪の飛脚問屋の養子、忠兵衛は馴染みの遊女梅川を見受けするためにご法度の公金の封を切ってしまい追われる身に。死を覚悟した二人は忠兵衛の生まれ故郷の大和、新口村に落ち延びます。そこへ孫右衛門が通りかかりますが、罪人なので家の中に身を隠し、障子窓から父の姿を見守ります。雪道で転ぶ孫右衛門。思わず駆け寄り下駄の鼻緒を直して介抱する梅川。その二人を見守る忠兵衛。歌六と扇雀のやりとりが涙を誘います。自分を気遣うこの女が息子の連れだと気づく孫右衛門。梅川は孫右衛門に めんない千鳥 という座敷遊びの時のように目隠しをして忠兵衛に会わせます。父の手が息子をなで、息子の手が父の手を握りしめます。
そこへ追っ手の声が聞こえてくる。親の目の届かないところで捕まってくれと泣く孫右衛門。後ろ髪を引かれながら雪の中を逃げていく二人。このラストシーンが哀しく叙情的。降り頻る雪の木立の中、黒地に同じ裾模様の着物に手拭い姿の二人が絵の様に美しい。逃避行なのに、比翼と呼ばれるペアの衣装。
これが歌舞伎の美意識か。美しい舞台に則恵ちゃんもうっとり。

最後の演目は元禄忠臣蔵 大石最後の一日。本懐を遂げた四十七名の浪士達は四家の大名屋敷にお預けの身となっています。御使役堀内伝右衛門が細川家にお預けとなっている大石内蔵助(松本幸四郎)に一人の小姓を引き合わせます。大石はその小姓が女性だと見抜きます。この女性は細川家の元家臣、乙女田杢之進の一人娘おみの(児太郎)。彼女は浪士の磯貝十郎左衛門(染五郎)の許嫁でした。なんと結納当日に討ち入りのために姿を消した磯貝の心を知りたく、必死の思いで男装して屋敷を訪れたのです。磯貝の気持ちが揺らぐのを恐れ会わせることをためらう大石。そこへ浪士全員の切腹命令が出る。今日一日の命。大石は磯貝が琴の爪を肌身離さず大事に持っていることを知っていました。それこそおみのの琴爪。大石は二人を会わせてあげる。磯貝の真心を知ったおみの。おみのに後ろ髪を引かれながらも必死に耐え部屋に戻る磯貝、恋人達の美しく切ない別れ。
おみのは浪士達が一人一人刑場に進むその場で磯貝に先立ち自害する。磯貝の腕の中、愛に順じたおみの。すぐに追いかけると磯貝。この作品は以前にも一度見たけれど、児太郎の雰囲気にあっているのかウルウルしてきました。
今日は愛しているからこそ、哀しい結末を迎える三組のカップルを堪能しました。

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