文化・芸術

茶碗の中の宇宙



利休からの依頼で轆轤を使わずに手捻りで作陶するスタイルを継承している楽焼。豊富秀吉が楽焼と命名し、徳川家から印を与えられ現在まで脈絡と続く楽家の焼き物の歴史を探る展覧会です。

近代美術館の講義室で行なわれたのは楽家十五代当主楽吉左衛門氏と坂東玉三郎氏の対談。小林さんご夫婦が応募したけれど一枚しか当選しなかったために私に応募券が回って来ました。
私は焼き物には余り興味がないけれど、楽焼が手捻りだということ、一子相伝だということを知って俄然興味を持ち喜んでやって参りました。対談自体はそんなに興奮するほどのこともなく、赤と黒の釉薬や焼く温度の違いや、火入れ当日の大変な様子など。玉三郎が佐渡で焼き物をやっていることなどが語られましたが、ナビがいないので話の展開がゆるくて、もっとスリリングな話が出てくるのではという期待は外れましたが、展覧会は素晴らしいです。


今回の展示では利休が愛した7つの茶碗が一同に。
利休から依頼を受けた長次郎によって創造された楽茶碗。絢爛豪華な文化を誇った安土桃山時代に、全ての装飾を削ぎ落として、茶碗の見込みの中に無限の世界をイメージさせた、まさにその時代のアバンギャルド。
一子相伝というなんともミステリアスな継承法。現在の当主はそのお父上から直接教えてもらわず、書き物も残されなかったそうです。ただ自分の背中と仕事を見せてくれ、伝統とは受け継ぐだけでなく、己が己の時代に生きて、己の世界を切り開くべきだ。と教えられたそうです。
450年に渡って受け継がれ、その時代の当主達が先代と違う表現を模索してきた不連続の連続によって生まれた作品達はどれも内なる光を放っています。


撮影コーナー。初代長次郎作、黒楽茶碗 銘 万代屋黒 もずやぐろ の3Dコピー。アルミ製なので実物より200グラム重いそうです。

手に取って遊べます。

安田靫彦展覧会



半世紀ぶりに開かれた安田靫彦展。連休は混みそうだからと思っていたらもう終盤を迎えていたので慌てて竹橋へ。


テレビで報道されたそうで、やはり混んでいました。90歳過ぎても制作できた幸せな画家の一人です。絵描きは早逝か、もしくは長寿で名を残す。

1912年の『夢殿』聖徳太子は好んで描いています。美しい線描が画家の持ち味。

1929年の『風神雷神図』 柔らかな優しい線で少年のような風神雷神。光を放ち、風を送るニ神の表情が素敵です。

1940-41年にかけて戦時中の作品。重要文化財の『黄瀬川陣』 源頼朝が張っている陣に対面伺候する義経。明るい未来を思う頼朝のおおらかな表情と、緊張からか、不吉な未来を予測してか少し陰りのある義経の表情。六面ニ双の屏風絵。

1964年の作品『飛鳥の春の額田王』70を過ぎて若い頃よりも、艶やかな色遣い 。遠くに霞む大和三山。見ている人に華やかな往時の人々の恋物語を連想させます
1973年の『草薙の剣』日本武尊が様子を焼津で焼き打ちあった時に叔母に貰った草薙の剣で払うという神話をモチーフにした作品。不動明王の姿を参考に描いたそうです。最晩年の作品も展示されていましたが、年齢を重ねるほどにカラフルに大胆な構図になっていくのが興味深いです。

十月大歌舞伎


昨夜からの大雨の影響か、今朝はいろいろな線が遅れている様子。京浜東北線ものんびり徐行運転していました。途中から山手線に乗り換えたので開演前に無事到着。でも友人は散々な目にあったようで汗だくになって到着。お疲れ様。昨日初日を迎えた十月大歌舞伎。お楽しみはこれから!


第一幕は[音羽嶽だんまり・おとわがだけだんまり] 山中の神社に奉納された名刀と白旗。奉納の舞が始まる中で、踊り手に混じった盗賊の音羽夜叉五郎がその名刀と白旗を奪います。取り返そうとする将軍太郎良門達との戦い。暗闇の中で行われているという暗黙の了解がこのだんまり。まさに歌舞伎の見せ場になるはずが・・・。6人の役者と立ち回りの役者が繰り広げるだんまり。まだ二日目でこなれていないせいか、暗闇の緊張感が感じられず間延びした印象。先月の競伊勢物語の玉水淵で菊之助と又五郎が演じた二人の暗闇のスリリングな雰囲気を思い出してしまう。

 二幕目の「矢の根」は歌舞伎十八番の一つで荒事による祝祭劇だそうです。物語よりも様式が重要。荒事役者の真骨頂が試される作品。そういう意味では今回の松緑はいい味出しています。前回見た矢の根よりも一回りスケールが大きい曽我五郎を舞台に見ました。(前回がひ弱過ぎた?)

正月の相模国、曽我の家は五郎が矢の根(矢じり)を研いでいます。そこへ大薩摩の大夫が年始の挨拶に来て宝船を書いた縁起物の絵を置いていきます。五郎はそれを枕にしいて初夢を見ることに。ところが夢に現れたのは工藤の館に捕らわれている兄の十郎(坂田藤十郎) 目を覚ました五郎は身支度(二人の後見が矢の根の特徴ある化粧襷をかけるシーンもどんな姿になるか知っていてもワクワクします)を整え、ちょうどやってきた馬子を襲って馬を盗み、大根を振りかざしながらいざ出立。松緑に貫録が出てきたのでとても見ごたえある一幕になっています。

 今日楽しみにしていたのがこの演目。「一條大蔵譚・いちじょうおおくらものがたり」 仁左衛門が阿保のお公家さん一條大蔵長成を演じます。平家全盛の頃、一條大蔵長成は常盤御前を妻に迎えます。常盤といえば源義朝の妻で頼朝、義経の母。平清盛の寵愛を受けた後に大蔵に下げ渡された悲劇の女性。源氏の忠臣、吉岡鬼次郎(菊之助)は妻お京(孝太郎)と御前の本心を探ろうと大蔵の屋敷に潜り込みます。そこで見たのは揚弓に興じている御前の姿。鬼次郎は激しく叱咤します。ところが弓の的の下に隠されていたのは平清盛の肖像。常に弓で遊んでいるふりをしながら平家調伏の願いが込められていたのでした。

この様子を見た大蔵の家臣八剣勘解由は早速清盛に注進しようとしますがこれを制し、打ったのは阿保で知られる普段の姿とは打って変わって威厳にあふれた大蔵卿でした。平家一辺倒のこの時代に嫌気がさしていた大蔵卿は、狂言に熱中している、緩いキャラクターで世間をごまかし、時の政治などから一歩引いた世界に住んでいたのでした。

吉岡とお京に常盤御膳の身は命を懸けて守るから心配するなと言って二人を見送るのでした。仁左衛門のお公家様のなんと品のあること。阿保のふりをして戯れている様子の一つ一つが計算され、身についた育ちの良さが染み出て、大げさでなく、この人が演じると阿保までがこうも可愛い。冒頭屋敷の前で吉岡に対面した時に阿保のふりをしながら吉岡と目を合わせすべてを感知して、何もなかったかのように顔をそらす・・・。このシーンを見ただけで深い洞察力がうかがえます。天に顔を向けながらニコニコしている、天真爛漫な姿のチャーミングなこと。この演目を見ることができてラッキーでした。

 最後の演目は「文七元結・ぶんしちもっとい」人情劇の代表です。子供の頃に見た記憶があります。左官屋の長兵衛(菊五郎)は腕は立つのに大のばくち好き。仕事もしないでばくちに明け暮れているので女房のお兼(時蔵)とは喧嘩ばかり。ある日ばくちに負けて着物までなくして帰ると娘のお久がいない。

そこへ吉原の妓楼角海老の女将(玉三郎)が使いをよこして長兵衛を呼び出す。角海老に行くとそこには娘のお久が。なんと家の苦境を見かねたお久が身を売りに来たというでは。娘の心意気に勘当した女将が長兵衛に心根を入れ替えて仕事に精を出すよう諭し、借金を返すための50両を貸してくれ、娘は店に出さず3月まで預かるという。目が覚めた長兵衛は50両を胸に家路に・・・。

途中の大川端で店の売上金50両をなくしたために身を投げようとしている文七(梅枝)に会います。この窮状を見かねた長兵衛は大事な50両を文七にあげてしまいます。

長屋の戻った長兵衛はもちろん女房と大喧嘩。翌日もふて寝をしていると客人が・・・。なんと昨日の若者がお店のご主人と一緒にお酒を持って現れました。なくしたと思っていた50両は取り立てに行った店に置き忘れたことが判明。子供のころから文七の面倒を見てゆくゆくはのれん分けを考えていた主人は命の恩人と長兵衛を探し出し、おまけにのれん分けした文七とお久を結婚させたいと、角海老に借金を払ってお久を連れ帰ってきたではないか。昨日はいかにも山育ちの娘といったお久が一夜明けたらすっかりきれいな町娘になっていてビックリ。梅枝の文七は大金をなくして死ぬしかないと肩が落ちた風情がぴったり。いつも女形のきれいなお姫様を見ているのでこういう役も新鮮。いなせな町人の心意気が幸せをつかむという楽しいお話。菊五郎にぴったりの話です。

 今日は三越でお買い物ができなかったので歌舞伎座内のお弁当。色々入っていて美味しいです。

秀山祭9月歌舞伎

92明治から昭和にかけて活躍した初代中村吉右衛門(1986~1954)の生誕120年を記念して、孫の二代吉右衛門や九代松本幸四郎などによって2006年から行われているのが九月恒例の秀山祭。秀山とは初代の俳名だそうで、この名を冠し、芸を継承する会です。今回は昼の部を堪能しました。


93 最初の演目は「双蝶々曲輪日記・ふたつちょうちょうくるわにっき」 この狂言は「角力場・すもうば」「米屋」「引窓」「橋本」という場面がよく上演されるそうですが、今回は珍しい序幕の場面が上演されました。物語の発端になります。二組の恋人たちが登場しますが、こののち運命を翻弄されるのですね。

新清水にある料亭、浮無瀬・うかむせが舞台。藤屋の遊女吾妻(芝雀)には山崎屋の若旦那与五郎(錦之助)。都(魁春)には元侍で今は笛売りの南与兵衛(梅玉)という恋人がいます。ところが吾妻に身請けする話が。驚いた与五郎に山崎屋の手代が店の金を工面しますと提案。実はこれは偽の金を用意して与五郎を罪に陥れようとする手代の策略。手代は金を手に入れて都を身請けしたいと思っていたのだ。

それを陰で聞いていた与兵衛が与五郎を助けようと誤って手代の仲間を手にかけてしまいます。その時に左手の小指をかみ切られてしまいます。どんな理由があるにせよ人を殺めてしまった与兵衛。都に指のけがを聞かれ理由を話すと手当をして奥に行くように。そこへ手代が金を持って都を口説きに。私を本当に好きなら小指をおくれと、手代を誘惑。手代の小指を切り落としたところに、ご詮議が登場。死体が小指を加えていたので小指を怪我している手代を引っ立てて行ってしまいます。

能天気なのは何も知らず(自分が騙されて、それを助けようとして殺人が起こったことも知らない)奥座敷で大騒ぎをしている与五郎。錦之助がのんびりした若旦那を好演。

与兵衛は吾妻を身請けしようとして失敗した侍二人に追われて清水寺の大舞台へ。やりあった後で二人を煙に巻くかのように、傘をさして清水の大舞台から地上へふわっと舞い降りていきます。舞台の上を宙吊りになってふわふわ、花吹雪と一緒に舞っている様子は気持ちよさそう。

9 次の演目は「紅葉狩・もみじがり」。以前に能で見たことがあります。また違った趣。平維茂(松緑)は従者を伴い戸隠山に紅葉狩りに来ると、宴を催している更科姫(染五郎)の一行に誘われ酒を酌み交わします。更科姫の舞姿を見ているうちにまどろみ、いつしか姫たちは姿を消してしまいます。そこへ山神(金太郎・染五郎の長男)が現れ更科姫はこの山に住む鬼女だと警告します。目覚めた維茂は鬼女の姿を現わした更科姫に立ち向かい、松の大木の上まで追い詰めていきます。

紅葉の華やかな背景を背に竹本、常磐津、長唄の三方掛け合い。更科姫の美しい舞を眺めながら意識が薄れていく平維茂。私もあまりの気持ちよさに意識が遠のいていました。意識が戻ったのは花道を元気に駆け抜けていく金太郎君の雄姿を見て。10歳でこの大舞台を務めるなんていいね~。

92_2 今日のメインは「競伊勢物語・だてくらべいせものがたり」 この競は「はでくらべ」 とも伝えられているそうです。なんとこの演目は歌舞伎座で50年ぶりに上演されるそうで、あの渡辺保氏をして、待ち遠しくて初日に鑑賞とのこと。さてさてどんなお話なのか!

紀有常(吉右衛門)は高貴な身分ながら兄に勘当されて東北を漂白。その時に隣人だった小由(東蔵)に実の娘信夫・しのぶ(菊之助)を預けます。その後許されて都に戻ります。そして自分は文徳天皇の内親王井筒姫(菊之助)を自分の娘として育てています。井筒姫は在原業平(染五郎)と駆け落ちして小由の家にかくまわれています。その井筒姫に横恋慕しているのが文徳天皇の跡目を惟仁親王と争っている惟喬親王。惟喬新王は紀有常に自分の意に従わない姫を殺すように命じます。そして三種の神器の一つ神鏡を惟仁親王側から奪い玉水淵に隠してしまいました。伊勢物語を題材にした惟喬,惟仁の皇位争いの陰謀を描いた7幕の脚本のうち5幕、6幕が現存されていて上演されるそうです。ここまでの話は伏線として暗黙の了解というわけです。

5幕目から始まるこの話。序幕は「奈良街道茶店の場」。京都へ商いに行って奈良へ戻る途中の信夫と新婚の夫の豆四朗(染五郎)。一休みしている茶店で信夫は夫の秘密を聞かされます。実は夫は惟仁新王側の在原業平の旧臣磯上俊清で神鏡を探しに玉水淵へ行くということを。この玉水淵は立ち入り禁止で禁を犯せば処刑されるという場所。それを茶店の親父にに聞かれ困っていると荷役として雇っていた饒八(又五郎)が親父の首を絞め二人を逃がします。ところが二人はグルで先に鏡を見つけようと殺したふりをしただけでした。そうとは知らない信夫たちはその場を逃げ出して国へ戻ることに。

その夜、饒八は玉水淵に潜って見事鏡を探し出します。そこへ現れたのが夫のために鏡を手に入れようと夫を騙してやってきた信夫。暗闇の中、かすかにお互いの空気を感じて動くこの二人がとてもいい。緊迫感があって息をつめて見入るシーンです。最後に信夫がうまく鏡を手に入れ饒八を交わして逃げ切ります。

次の場は小由の家。戻った信夫は夫に神鏡を渡すと、禁をおかしたから母も処刑されると聞き、わざと勘当されるために母につらく当たります。そこへ今は高位の有常が訪れ昔の長屋仲間のように小由とはったい茶を飲みながら世間話。べらんめえな口調で昔の思い出を話しながら娘を返してほしいと話しの核心へ。小由に拒絶されます。そこへ禁断の場へ入った犯人の詮議が・・・。それを裁くのは有常。ついに小由も有常が娘を都へ連れ帰ることを承諾。

有常が十二単を抱え信夫のいる部屋に入る下り。このときすでに娘を井筒姫の身代わりにする決心をしている有常がゆっくりと小由を振り返る様は一瞬時間が止まったような印象を残します。都へ連れ帰ると称して娘の髪をおすべらかしに漉くくシーンは絵のよう。髪を漉きながら実は身代わりにお前を殺すと娘に打ち明けると、けなげな娘は夫に会いたいと。そこへ豆四朗が業平の身代わりになるべく白装束で現れる。

別れに娘の琴に合わせて砧を打ちたいという小由。豆四朗を衝立で隠し琴をつま弾く信夫。何も知らない小由が砧を打っている間に豆四朗が切腹。信夫の手が震える。そして有常が衝立の影で娘の首を討つ。身を殺しても大儀のために・・・。それぞれの思いを抱えた四人が作り出す悲劇の空間、まさに歌舞伎の空間ですね。

9_2 永田町当たりのいやな動きや災害、事件と暗いことが多い日々。こんな時に歌舞伎を楽しんでいていいのかと一瞬思ったけれど、いやいや、こういうものを楽しめなくなる世の中にしてはいけないと強く思い直しました。

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9_4 これはまさに歌舞伎弁当。木挽町ホールで販売中。

納涼歌舞伎夜の部

Photo ひところの猛暑が少し収まった感じのする夏の宵。気持ちのいい時間。銀座の裏には粋な名前が残っていますね。ここら辺は木挽町。歌舞伎座は木挽座と呼ばれていたのですね。今日は納涼歌舞伎の夜の部を見に行きます。


2 裏手から回っていきます。


Photo_2 八月は三部公演なのでどの部も演目は二つ。夜の部最初の演目は「芋掘長者・いもほりちょうじゃ」。春に亡くなった三津五郎が平成17年に45年ぶりに復活させたという作品です。三津五郎がその時演じた役を橋之助が演じています。踊りの良しあしで婿を選ぶというなんだかボリウッドのような陽気な話。

松ヶ枝家では息女緑御前(七之助)の婿選びの舞の会が催されています。御前に思いを寄せる芋掘藤五郎(橋之助)が友人の治六郎(巳之助)とあらわれます。われこそは日本一の舞の名人と名乗って案内を乞いましたが、実は踊りができない藤五郎の代わりに面をつけて治六郎が踊ります。見事な舞に感心した緑御前が面を外して踊るよう所望。窮地に立たされた藤五郎、ヤケのヤンパチで踊ったのが芋掘踊り。そのユーモラスな動きに御前も思わず一緒に踊りだします。きっと三津五郎は楽しんでこの作品を復活させたのだろうなと、彼の踊っている姿を舞台の上に再現させて見ていました。


Photo_3 こちらは京を舞台にした粋なお話。茶道具大津屋の主人次郎八(扇雀)のもとに彼が若いころ世話になった人の息子留五郎(勘九郎)が宿泊しています。江戸っ子の留五郎は京の水が合わず明日にでも江戸へ帰ろうと思っています。

ところが次郎八の女房おつぎ(扇雀の二役)の妹おそのに一目ぼれ。しかもそのおそのから一緒に江戸へ連れて行ってと頼まれ有頂天。ところがおそのは手代の文吉(巳之助)と深い中で駆け落ちの手助けを頼まれたのです。おそのには取引先の大店の息子との縁談が持ち上がっていたのです。がっかりしたけれどそこはきっぷのいい江戸っ子留五郎。二人の助けを約束。おまけにおつぎからは次郎八が浮気をしているようなので調べてほしいと頼まれる羽目に。

次郎八は芸者染香(七之助)に熱を上げていますが、肝心の染香にはいい加減にあしらわれています。次郎八と留五郎の二人も意地の張り合いで険悪になってしまいます。それぞれの思いが交錯する中、山鉾巡業の当日に次郎八と留五郎は持丸屋太兵衛に鴨川床に招待されます。そこへおそのと文吉が治郎八に許しを請いにやってきます。実は次郎八は若い二人の恋心を察していました。駆け落ちしてでも一緒になりたいという健気さに二人を許すことに。その男気に留五郎も感心。二人も和解。そこへ華やかに芸者衆が登場。なんと染香は恋人と所帯を持って芸者をやめたという。実は染香に熱を上げていたのは治郎八だけでなく持丸屋太兵衛も。がっかりした男二人を慰めようと、皆で祇園祭の夜を踊り浮かれて過ごすことに。

扇雀が夫婦二役を味わい深く、いい抜け感で演じています。勘九郎のエネルギッシュな雰囲気といいバランスが取れています。巳之助も踊りはまだ固いけれど、演技がうまくなって楽しみになってきました。去年の八月は怖い話だったけれど、今年は笑って納涼しましょうという企画ですね。

Photo_4 たくさん笑ったところで青山御膳の美味しいお弁当でおなかも満足。

三菱一号館美術館

Photo_3 連日の猛暑でフラフラしている頭をスッとさせるためにやってきました。三菱一号館美術館。この夏は河鍋暁斎が展示されています。正統狩野派の流れを引き継ぎながら、浮世絵や妖怪、鳥獣のみならず人間戯画をとりこんだ型にはまらない画風が明治時代に絶大な人気を博したそうです。実はスタジオのすぐ近くに河鍋暁斎記念美術館があります。だいぶ前に一度行きましたが、最近又人気が再燃しているので展示もスマートになっているかもしれません。また近いうちに訪れてみたいです。


Photo_4 入口に妖怪猫が「おいで、おいで」と手招いています。


Img001 暁斎は6歳で浮世絵師、歌川国芳に入門。9歳で狩野派に転じ修業し、幕末明治に「画鬼」と称され絶大な人気を博した絵師です。今回の三菱一号館美術館のテーマは「幕末明治のスター絵師と弟子コンドル」

建築好きにはたまらない名前、ジョサイア・コンドル。日本における西洋建築の父と言われるコンドルがこの三菱一号館を設計しています。そして日本美術愛好家のコンドルが師事したのが暁斎だったのです。29歳のコンドルが設計した上野の博物館で開催された第2回内国勧業博覧会に出品した暁斎の作品が伝統的書画の分野で最高賞を取りました。これをコンドルが観たのがきっかけで師弟関係が始まったそうです。コンドルはパトロン的意味合いも込めて相場よりも高い謝礼をしていたそうです。20歳以上年の差があるこの二人の交流はとても仲良く親密だったそうです。こういう話を聞くとそれぞれの人柄を想像できて楽しいですね。ちなみにコンドル夫人は日本人でした。

Photo_5 蛙を眺める美人。

Photo_11 さりげなく(?)座っているコンドル。

Photo 化け猫に肝をつぶす人びと。この化け猫、ユーモラスで可愛い。来館者を楽しませたいというキュレータ達の思いがあちこちに。京都高台寺に夏になると飾られる妖怪の掛け軸。あの印象が強いせいか暁斎は妖怪画が専門だと思い込んでいたのが払しょくされました。好奇心が強くてとにかく描くのが好きな人だったんですね。様々なジャンルの作品が集められているので、テーマごとの部屋をめぐって様々な暁斎にあえます。

Photo_16 今日はこの中庭で友人達と待ち合わせ。私以外は新国立で開かれている毎日書道展の帰り。三菱カフェが夕方からパブになるのでフィッシュ&チップスと黒ビールで乾杯するはずでしたが、なんと今日は貸し切りパーティーでした。いいな、私もあすこで貸切したい。

Photo_19 居心地がいいのでなかなか動けない。新丸ビルのいつもの気の置けないお店に行くことに。

Photo_23 この中庭が涼しいのは木が多いから。暑い日はミストも出ています。

女流画家協会展

Photo 東京都美術館で開催されている女流画家協会展。友人から届いた招待状には「引きこもって制作していました。また細くなってしまいました。」と書かれています。夢中になって制作しているときちっと食事をしなくなる友人の顔を思い出して心配に。でもそんな頑張っている友人の作品を見たら、のんびりしている私に風穴が開くかもと期待もしながら雨の中やってきました。

Photo_2 作品リストを見ながら友人の展示されている部屋を探すとなんと1号室。ひょっとしたら何か賞を取ったかもとワクワクしながら部屋を見渡すと人だかりが。去年から制作している友人のWALLの画風ではないか。

Photo_3 近寄ってびっくり。展覧会の最高賞である「女流画家協会賞」を受賞していました。頑張った友人が誇らしく思わず涙ぐみそうに・・・。蜜蠟を使った繊細で奥行きのあるマチエール。蝋を溶かしなが塗っていくので暑くて気の遠くなるような作業です。しばらく作品の前にたたずんで見入っていました。

2010年(震災の前年)の8月に彼女のふるさと会津にある末廣酒造のホールで絵とインド舞踊のコラボレーションをしたことがあります。一度踊ってみたいと思っていた古い歴史のある建物で、ホールの壁全体に彼女の女流画家協会展に出品した大作を展示。舞台には紗に即興で描かれた作品を飾ってその下で踊りました。大学時代や地元の友人達に手伝ってもらっておこなった懐かしい会。あの頃と又違う作風で、いつも新しい自分に挑戦している事が本当に素晴らしいなと思います。


Photo_4 平日の雨の午前中にもかかわらず沢山の入場者が。


Photo_5 ここは上の階の新人室。年齢ではなく初めて入選した人達の部屋です。


Photo_6 女流画家協会とは・・・。私も実は20代の頃絵を描いていて出品していました。


Photo_7 都美館に来るといつも撮影する私の定点観測。雨なので部屋の中から。

Photo_8 展覧会インフォメーション。気になるものがあったら見に行きましょう。

小さな美術館めぐり・・・日本画

Photo 千駄ヶ谷駅から5分。今話題の国立競技場跡と線路を挟んで反対側にある佐藤美術館。初めて訪れました。この美術館は若い作家達を後援しているそうで、今日観に来た藤井聡子さんもこの美術館の奨学生だったそうです。藤井さんは女子美術大学を卒業、芸大大学院で勉強を重ねたそうです。しっかりした技術と繊細な表現力から生まれた静かなエネルギーが心地よいです。

Photo_2 建物の3階から5階までが展示室になっています。展覧会のテーマはー交差の軌跡ー


Photo_3 3階は院展出品作品を中心に展示。この作品は「映ゆ」 広場で子供たちが楽しそうに乗り回す一輪車の轍にインスパイアされて制作したそうです。色を押さえたモノトーンの画面にきらきらと残された轍が印象的。


Photo_4 「暉轍」 秋色に染まった広場に残る義色に輝く轍が印象的。

4階には作家自身が幼いころから親しんできた書と日本画を組み合わせた作品が展示。短冊に歌をしたため、その歌にあった花や木々を日本画で描いて組み合わせるという作家冥利に尽きる作品が沢山展示されています。


Photo_5 5階には初期の作品。これは旅した時に目にとまった稲田の美しさに思わずスケッチした作品「映翠」 作家は「自然の美しさに優るものはなく、ただその時受けた感動を何とか画布にとどめたい」と語っています。この作品を目にした私は水田のきらめきと豊かな自然の美しさ、たくましさを感じました。

中国ウルムチを旅した時のスケッチをもとにした作品も数点ありました。暑い日差しの中、歩き疲れた作家が足を止めて思わず写生をした作品。大きな木陰の間を走る輝くような道。緑の風が吹きわたって、一瞬にして疲れが飛んでいったそうです。どの作品も画面の奥から光がさし風が吹いてくるような、そんなさわやかなものを感じます。この日は朝からいろいろ用事を片づけてちょっと疲れていたけれど、そんな疲れも飛んで行きました。

6月の歌舞伎

Photo 6月の歌舞伎座は通し狂言「新薄雪物語」が昼夜に分けて上演されます。今月は昼の部を見ることに。


Photo_2 会場入口で友人と待ち合わせ。お互いに写真を撮り合い遊んでいたら早く入ってくださいと係りの方に。席に着いたら1ベルが。


Photo_3 昼の部の最初の演目は「天保遊侠録・てんぽゆうきょうろく」。勝小吉と息子麟太郎(勝海舟)の親子鷹の物語。橋之助が若いころの放蕩生活が仇でいまだ無役の旗本、勝小吉をイキイキと演じています。息子の将来のために役を得るため、まいないを使い役人をもてなそうと苦労する小吉。上司のお気に入りの芸者がなんと若いころに駆け落ちしたけれど、家に連れ戻され一緒になれなかった因縁の八重次。小吉の息子を思う心にほだされ人肌脱ぐことにした八重次。

ところが宴会もたけなわな頃、慣れない接待に小吉の堪忍袋の緒が切れて・・・。役人たちを怒らせてしまいますが,そこへ助け舟。なんと秀才の誉れ高い麟太郎を上様の学友にするために大奥の阿茶の局(実は小吉の姉)が迎えに来ていたのです。幕末前夜の江戸の世相。古いものにしがみついている役人たちと新しい世界を見ようとしている麟太郎のような若者を描いています。橋之助が貫録出てきました。


Photo_4 「新薄雪物語・しんうすゆきものがたり」は陰謀に巻き込まれた若い恋人たちを救うために立ち向かう父親達の姿を縦糸に。刀鍛冶の秘伝をめぐる父子の葛藤が横糸になって織られる錦絵。今日は昼夜での通し。昼の部の一幕目は恋人達の出会いと陰謀の序章が演じられる「花見・はなみ」。満開の桜が咲き誇る、絢爛豪華な京都清水寺が舞台です。

寺へ花見に来た幸崎伊賀守の息女、薄雪姫(梅枝)と園部兵衛の息子佐衛門(錦之助)は姫の腰元(時蔵)と佐衛門の家来,奴妻平(菊五郎)の取りなしで恋仲になります。この時佐衛門は寺に刀鍛冶、来国行の刀を奉納します。この奉納した刀が後に二人を窮地に。若い恋人たちは再会を約束して姫が手紙を佐衛門に。ところが佐衛門はこの手紙をすぐに落としてしまいます。

幸崎伊賀守と園部兵衛の二人を失脚させたいと企んでいる秋月大膳の命令で名刀鍛冶正宗に勘当された息子の団九郎(吉衛門)が奉納された刀にやすりで傷を入れます。この傷が後に謀反の疑いを招くのです。しかもこの秋月は姫の手紙を拾いその中に忍ぶという言葉を見つけます。この忍ぶという字を刀と心にわけ、しかも刀に傷がついているのは姫も佐衛門の共犯と言う無理やりなこじつけが後で出てきます。女性からもらった手紙をすぐに無くす男が悪い。この様子を見ていた来国行が団九郎を見咎めると、秋月大膳(仁左衛門)の手裏剣によって殺され、死体はお堂に隠されます。華やかな花見の場面から殺しの場面へと一気に転換。この後大膳の奴の大群に絡まれた妻平の大活躍。菊五郎は演じていてさぞ気持がいいだろうなと思う華やかな見せ場です。


Photo_5 第二幕「詮議・せんぎ」の舞台は幸崎毛の広間。なんと佐衛門が姫に逢うために忍んできました。この逢引を姫の母に見つかりますが、母は二人の味方になってくれました。そこへ六波羅探題(検察のような役)の執権葛城民部(菊五郎)と主の幸崎伊賀守(幸四郎)と園部兵衛(仁左衛門)と秋月の弟大学がやってきて二人に謀反の疑いがあるので詮議に掛けます。

あらぬ疑いに困惑する薄雪姫(児太郎)と佐衛門。そこへ清水寺の坊主たちが戸板に載せた国行の死体を運びます。その死体を吟味した葛城はこれは手裏剣の名手の仕業、すなわち秋月大膳の陰謀と見破り、父親同士がお互いの子供を預かり詮議したいと言う申し出を受けます。ここも菊五郎の大見得で幕。気持良さそう。これから若い恋人と父親達はどういう運命に・・・。昼の部はここで終演。どんな展開になるのか夜もみたくなります。

Photo_6 拍子木の音が聞こえてきて開幕直前の期待にあふれた客席。


Photo_7 今日は幕間に館内を探索。1階には売店コーナーが充実。横に喫茶室もあります。2階にはギャラリーがあってソファーがあるのでお弁当も楽しめます。立ち飲みのドリンクコーナーでコーヒーを飲んでからうろうろしてみました。2階にはお食事処鳳。3階にはお土産ののれん街とお食事処の吉兆と花籠が。子供の頃に一度だけ広い食事処で幕の内を頂いたことがあります。子ども心に歌舞伎座って面白いところだと感じた記憶が。もちろん昔の建物。

Photo_8 食事の時間は終わったのでシーンとした花籠の前。このドアの奥に大広間があるそうな・・・。


Photo_9 4時前に終演。まだ外は明るい。話し足りないので三越新館で休憩。最近の銀座は外国人の買い物客であふれています。どうやら我々もアジア系外国人だと思われている伏しが・・・?一休みしながら日舞の田中さんから聞いたとっておき歌舞伎よもやま話をひとくさり。

海の賑わい 陸(おか)の静寂ーめぐり

Photo 世田谷パブリックホールで上演中の山海塾の新作を見てきました。2年に一度の新作発表です。チケットを購入した段階でまだ今回のタイトルが決まっていませんでした。改めてタイトルは「海の賑わい 陸(おか)の静寂 ー めぐり」 今回のテーマは回る。水の回流。時の移り変わり。四季の循環。そして揺らぐ身体。自身の踊りを振動と定義づけている主催の天児牛大さんにとってこのテーマは普遍的なものですね。実際、人が作品で訴えたいテーマと言うのはそんなに幅広くはないと思う。そのテーマを伝えるための手段はいろいろ模索してあれこれ試すだろうけれど。

カギ字型に2枚の長方形の板が置かれた舞台。堤防に囲まれた海のようだと思いました。上手手前に透明の天秤が吊るされています。この天秤が上下して下に丸いスポットが当たります。壁には古生代のウミユリの化石のモチーフが。ライトを浴びるたびに不思議な様相を示します。この壁が一瞬横に動いたときは舞台が動いたような躍動感がありました。山海塾の舞台はいつもうっとりするくらいシンプルで綺麗ですね。照明の色で舞台が海になったり砂漠に変化したりと目を楽しませてくれます。

自分が振りを付けるのだから自分が出来る動きをやります。若いメンバーにハードな動きを振りますとおっしゃっていました。私は天児さんの美しい身体の動きを見ていると、昔持っていたのに今は無くしてしまった何かを思い出させるような切なさをいつも一瞬感じます。これは何なんでしょうね?年配の方から若者まで幅広い観客が陶酔した密度の濃い1時間半でした。

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