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三月大歌舞伎

三月大歌舞伎は芝雀改め第五代雀右衛門襲名披露公演です。昼公演を見に行きました。



雀右衛門というのは女形の名跡だそうで、先代は91歳で亡くなりましたが晩年まで活躍なさっていたそうです。評論家・渡辺保氏によると年を重ねるほどに美しくなっていった稀有な存在だったとその著書『名女形・雀右衛門』の中で書いています。85歳にしてこの若さ、美しさ〜奇蹟の女形の芸と人生。これは10年前の書き下ろし本の帯のコメントです。今回の襲名披露公演では先代の当たり役である鎌倉三代記の時姫と金閣寺の雪姫を演じます。



最初の演目は『寿曽我対面 ことぶきそがたいめん』 江戸時代には正月に上演されてきた吉例の祝典劇です。曽我十郎、五郎兄弟が父親の仇、工藤十郎左衛門祐経に対面する様子を描いた芝居。
正月の工藤の館に年始の挨拶に集まった諸大名。工藤(橋之助)は遊女 大磯の虎(扇雀) 化粧坂の少将(梅枝) 喜瀬川亀鶴(児太郎)をはべらせて皆の祝福を受けています。そこへ小林朝比奈(鴈治郎)の手引きで曽我兄弟、兄の十郎(勘九郎)と弟の五郎(松緑)が対面します。工藤は二人の面影に彼らの父の面影を見つけ杯を与えます。十郎は素直に受け取りますが、血気盛んな弟は叩き割り、親の仇と名乗れと詰め寄ります。工藤は行方不明に なっている源氏の重要 な宝刀、友切丸が手に入らぬうちは仇討ち叶わぬと言い放ちます。

そこへ曽我家の忠臣、鬼王新左衛門(雀右衛門の兄大谷友右衛門)が友切丸を持って、駆けつける。それを見た工藤は五月に行われる富士の裾野の巻き狩りの総奉行を務めたら討たれてやろうと約束し、二人に狩り場の通行証を贈ります。二人に討たれてもいいという工藤の本心を知った兄弟は再会を約して幕になリます。
この一幕は何処から何処までも様式美を楽しむ演目。一座の代表、座頭役の工藤。和事の十郎。荒事の五郎。立女形の虎。若女形の少将。道化役の朝比奈。と歌舞伎のすべてのキャラクターが勢揃いし、その華やかさと絵画美が見所になります。特に登場人物たちが富士山などの吉祥 模様を描く最後の幕切れに様式美が結集されています。

この場で印象的だったのは鴈治郎、扇雀兄弟。扇雀の風格ある立女形が凛として美しく、側に佇む若女形が霞んでしまいました。去年鴈治郎襲名公演を見た時は、あれっと頭の中で ?マーク が飛び交った鴈治郎。その後見た吉田屋では和事の可愛いボンボンぶりが案外かわいいかもと思わせました。今日の愛嬌ある朝比奈は見栄も堂々として凄く大きく見えました。名前を継ぐというのは芸の心を継ぎ、成長していく様を見せることなのですね。

次は華やかな舞踊が二種。最初は常磐津での『女戻駕 おんなもどりかご』 芸者おとき(時蔵)とおきく(菊之助)が吉原まで駕を担いでやってきます。そこで駕の戸を開けるといいご機嫌の奴の萬平(錦之助)が降りてきます。三人がそれぞれ廓自慢を始め、酒宴や駆け引きの様子を踊り始めます。三人の掛け合いが粋。
 
二曲目は暗転のままの舞台変換。照明が入った瞬間、その華やかさに思わず客関から歓声が。吉原の町中,長唄連中が正面に勢ぞろい。豪華です。芸者お春(魁春)とお孝(孝太郎)、そして鳶頭梅吉(梅玉)が多くの遊客でにぎわう吉原の様子を踊る「俄獅子・にわかじし
俄かというのは即興芝居や大道芸のことを指すそうです。にぎやかな大通りにいろいろな芸人がいて芸を披露している様子が生き生き描かれます。


お祝いムードが高まったところで今日の主役、芝雀改め雀右衛門が登場する「鎌倉三代記」絹川村閑居の場。
検閲を逃れるために鎌倉時代の名前を使っていますが、大坂夏の陣の攻防を描いています。京方(大阪)の武将三浦之助義村(史実では木村長門守)この役は体調不良で降板した菊五郎に替わって菊之助が演じています。この三浦之助の母長門(秀太郎)は病気療養のため絹川村に隠遁し嫁の時姫(雀右衛門)が看病しています。時姫は鎌倉方(史実では関東)の総大将北条時政(史実では徳川家康)の一人娘。
父と夫の戦い。豊臣秀頼の妻になった家康の孫千姫と似た環境ですが、時姫の場合は政略結婚ではなく父に背いても敵方の武将三浦之助と添い遂げたく、その母、つまり姑に仕えているという設定。
 
重症を負った三浦之助は母の病状が心配で一時戦場を離脱して母の閑居へ会いに来ます。手傷を受けていたため木戸口で倒れてしまいます。ここへ物音を聞いた時姫が登場。赤姫の振袖かんざし姿に姉さんかぶりとたすき掛け。この不思議な姿はあまり上演されないそうですがこの場の前に豆腐買いの場があるそうで、姫君が村の豆腐屋へ姑の好物の豆腐を買いに行くシーンがあるからだそうです。なるほどね。姉さんかぶりをした姫を始めて見ました。
倒れている三浦之助を見つけ薬湯を飲ませるシーンに姫の情愛が感じられて美しい。
しかし、せっかく訪ねてきた息子に母は戦場離脱とは何事かと怒って会おうとしません。それを聞いて戻ろうとする三浦之助を引き留める時姫の「短い夏の一夜さに 忠義の欠くることもあるまい」というくどき。姑は夫に戻れというが、夫は討ち死にを覚悟していることを知っている妻はこの世で最後の夜かもしれないから一緒にいたい。それまで姑に逆らわず健気に使えていた姫がたった一度だけした反抗。
 
しかし夫は実家が敵方となった姫に心を許しません。そんなときに姫を呼び戻そうとやってきたのが時政方の足軽、安達藤三郎(吉右衛門)。しつこく姫に言い寄り、姫に切りかけられて逃げ出しますが、実はその正体は三浦之助と共謀していた佐々木高綱。時姫に父、北条時政を打たせようという計略。姫は父と夫との板挟みになりますが夫への愛情を選びます。
時姫のこの切ない心を見せるのがこの役の最大の見せ場といわれ。また三代赤姫に選ばれるゆえん。菊之助は登場して瀕死の重傷で倒れている時は若々しくていいが、後半、藤三郎らと絡む段になるとその若さが目立ってしまう。難しかった?
 
渡辺保氏によると先代雀右衛門はこの時姫の細やかな感情を指先や、ポーズで表現したといっています。例えば薬湯を夫に飲ませるシーン。夫を戦場に返したくないので木戸を閉めるその手。立ち姿や一歩踏み出すその足先、指先だけで色々な思いを巧みに演じたその背後には役へのしっかりした感情移入があった。だからどの役も素晴らしく女らしかったといっています。ぼんやり見ていた私には・・・。
先代が稀有な存在とまで言われているのですから、その名を継ぐのは大変なことでしょうね。でも鴈治郎はんも頑張っています。自分に与えられたカルマを頑張るしかない。
 
最後の演目は仁左衛門と孝太郎が踊る「団子売 団子売りの夫(仁左衛門)。妻(孝太郎)が餅をつきながら二人のなれそめ、夫婦の歴史を踊ります。明るい舞台に天性の色気のある仁左衛門。舞台の二人が輝いています。なんとも軽やか、息の合った踊り。たった15分の演目なのに、劇場の空気をすかっり変えてしまう勢いと華やかさ。
仁左衛門は登場するだけでその場に光を添えてしまいます。観客一同うっとり、目を細めて見入ってしまいました。孝太郎もその前の芸者役よりもこの団子売りの女房役のほうが生き生きしていて可愛い。特におかめの面をつけて踊る場面はその柔らかな動きがまさっているように思えました。仁左衛門という役者は一緒に出る役者や裏方さん達も生き生きさせる力を持っているのだなと思います。楽しい気分で劇場を後にできます。
 
スポンサーからのお祝いの幕。今年一年、色々な劇場で飾られるのですね。

ロビーもお祝いムード。



今日は豪華に弁松のお弁当。

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