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平家物語より

Photo_2  先日能楽堂のHPで見つけたプログラムです。平家物語を聴く会が後援している女優若村麻由美さんの劇世界と題した公演。大好きな能楽堂でやはりお気に入りの野村萬斎さんとの共演。これは是非見てみたいとさっそく申込。もうチケットはないかもと思っていたらまだ大丈夫ですよとご親切なメールが。

おまかせチケットなので中正面かもしれないと思っていたら脇正面。ラッキーです。私は脇正面が結構好きです。橋掛りに近いので役者さんの出入りがよく見えます。

平家物語と言えば琵琶の上原まりさんと公演でご一緒したことがありました。一人語りの平家物語を若村麻由美さんと萬斎さんがどう料理するのでしょうか。楽しみです。いろいろな会があって、いろいろな人がいろいろな勉強をしているのですね。勉強は尽きない。さて、今日の演目は「巴」「小宰相」「千手」。

 ご存知木曽義仲の愛人巴が義仲と別れて東国に逃れていくまでを描いています。女性ながら勇ましい女武者巴は愛する義仲と最後までともに戦いたかったのに女ということで追い返されます。愛する女を死なせたくない、残って自分の供養をしてほしいと思う義仲。ともに戦いながらも、ともに死ぬことを許されなかった巴が最後の奮戦をして東国に去っていく姿を描いています。

若村さんは女武者の装束になぎなたを振いながら、一人で義仲、兼平、巴と何役ものせりふ回し。前から芸達者な女優さんだと思っていたけれどお見事。立ち姿、声がとても綺麗。勇ましい戦いの様子、特に敵の大将の首を自分の馬の鞍に押しつけねじまげて捨てるシーンは鳥肌です。まさにカーリー。荒々しいだけでなく凛とした美しさがあって私達のカーリー、ドゥルガーもこうありたいと思いましたね。

小宰相 宮中一の美女の誉れ高い小宰相を見染めた平通盛。たくさんの恋文を送られて結ばれた仲のよい夫婦。夫の戦死を知り後を追いたいと乳母に言うと、お腹にいる忘れ形見を育て夫の供養をすることが妻の役目と諭され、どうしても入水するなら私も御供すると言われる。いったんはあきらめたふりをして乳母がうたた寝をしている間に西方浄土での再会を念じて海に身を投げます。これも若村さんが一人でしっとり演じます。

千手 最後の千手でいよいよ萬斎さんの登場。清盛の五男平重衡役。重衡は父の命で奈良を攻めるが戦火が東大寺に移り多くの寺が焼けおちてしまう。その後重衡は一の谷の合戦で捕えられ源頼朝に対面を臨まれ鎌倉まで赴く。武士たるものが捕えられて命を失うこと恥ではない。急ぎ首をはねよと言い放ち、頼朝はじめなみいる武士達に感嘆されます。

頼朝は重衡を伊豆の狩野介宗茂に預ける。旅の疲れをいやすために湯浴みの用意をし、長者の娘千手を遣わします。湯浴みの介錯をした千手は頼朝から「なんなりとお望みを聞いてくるように仰せつかった」と問うと重衡は「出家だけが望み」と答える。千手は帰って頼朝にその旨を伝えると「重衡は仏敵、私の一存で許せることではない」と断られる。

その夜、琵琶と琴を携えて盛装した千手が重衡を訪れる。出家も許されないと聞いた重衡は千手の酒を受けても飲もうとしない。千手は重衡を慰めようと「羅奇の重衣たる、情けない事を機婦に妬む」という菅原道真の漢詩を読みます。この朗詠をすると北野天神(道真)が三度空を回って助けてくれると言い伝えられているので重衡は、こんな田舎に教養のある女性がいることに驚きます。

朗詠のやり取りをしているうちにようやく心を開き、千手の杯を受けます。その時千手が琴を弾きます。重衡は興に乗って「この曲は五常落(ごじょうらく)という曲だが、私には後生落(ごしょうらく)と聞こえる。さあ私の往生の急を弾こう」と戯言を行って皇麞急(おうじょうのきゅう)を琵琶でつま弾くと千手も琴を会わせ2人の心が通いあっていく。萬歳さんが琵琶をつま弾く振りをすると控えていた演者が美しい音色を奏で、若村さんが琴の弦を弾く振りをするとやはり控えていた奏者の音が響き本当に美しいシーンでした。それにしても古の恋人達は教養がないと恋も語れないから大変。

Img_00012 夜更け「燈暗うしては数行虞氏が涙」という朗詠をします。これは項羽が愛妾虞美人との別れを惜しんだ詩で、それをわが身になぞらえたのでした。能舞台の上で2人の舞い姿の何と美しかったこと。能舞台が宇宙の中にぽっかり浮かんでいて、その中で2人が浮遊しているように見えました。2人とも仕草がとびきり綺麗なのでどこをとっても美しい。普通は能では男女が目を見合わせることはないので、生身の男女が能舞台の上にいて目を見合わせるだけで何やらなまめかしい。

重衡はこの後、再び勅命により都に護送され木津川で処刑されます。橋掛りを退場していく萬斎さんに目が離せません。気がつくと暗転になって最後の語りを終え灯りが着いた時に盛装だった若村さんの衣裳が出家を象徴する墨色の内掛けになっていました。いつ衣抜きをやったのか全然気がつきませんでした。

この三人の女性は男性の無念に寄り添う女性達だと思う、と言う萬斎さんの言葉。なるほどと説得力あります。

生きたかった木曽義仲の無念。巴が生きることの代弁者になる。

道盛は無念でありながらも、落ちていく運命に沿っていく。そして小宰相も彼に沿って身を投げる。

重衡は奈良の寺を炎上させ仏敵になってしまった無念。仏にすがりたいのに出家も許されない無念。だからこそ重衡の死後千手は出家する。

一つの物語もいろいろな視点から探ると思いもかけない見方ができますね。

そういえば先日フィギャスケートを見ていたらロシアの選手が「シンドラーのリスト」を踊っていました。赤いコスチュームの選手から映画の中のシンボリックな赤いコートの少女を連想しました。最後に解説の人がやはり同じことを言っていたのできっと選手の意図もそこに託されているのだなと改めて表現の素晴らしさに感嘆。

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